【図解】T.S.エリオットの荒地、ジェームズ・フレイザーの金枝篇、ウェルギリウスのアエネアスまで?!「バナナフィッシュにうってつけの日」を深掘りしてみた
「荒地」と「バナナフィッシュにうってつけの日」テーマの相似
T.S.エリオットによる詩「荒地」は、第一次大戦後のヨーロッパ社会を陰鬱に描写した5部からなる長編詩です。発表は1922年。
語りに一貫性はなく、断片的なものを寄せ集めたコラージュの様相であることに加え、様々な古典が引用されていることから難解として知られています。
・アーサー王伝説
・聖杯伝説
・ジェームズ・フレイザー「金枝篇」
・ダンテ・アリギエーリ「神曲」など
・聖書
・ウパニシャッド哲学
「荒地」・「バナナフィッシュにうってつけの日」共に、このような概念が根底にあるのではないかと考えられます。
ジェームズ・フレイザー「 金枝篇 」
「金枝」ウィリアム・ターナー (1834)
金枝篇は、イギリスのジェームズ・フレイザーという人が40年かけて各地の宗教儀式・神話・呪術などを調査しまとめ上げた文化人類学、民俗学、比較宗教学的に価値のある超大作、らしいです。初版発行は1980年。
タイトルにある「金枝」の由来となったのはネミの森の司祭殺し。
なんかちょっと怖そう。見ていきましょう。
ネミの森 司祭殺し
場所はイタリアのローマ。アリッチャという町の近くに、ネミ湖があります。
出典:google map
まずはこちらを見て想像力を駆使してください。
司祭殺しという円環
①奴隷が命からがら逃げてくる
↓
②聖なる木の枝を折ることができれば、司祭と一騎打ち
↓
③司祭を殺せば、晴れて森の王となり、自分が司祭の座に
↓
①に戻る
ネミの森の司祭は人殺しの司祭であり、自身もまた殺される運命にあったのですね。これはどうやら
という図式があり、
というような迷信からきているようです。
金枝篇の中核となる考えは、宗教儀式や風習、迷信や伝承には共通する要素があり、その源流は自然崇拝などの原始的な形態に求められる、というものです。
こうした慣わしの多くが、生死のサイクルを中心として展開しており、生贄や王殺しもその一つの形です。
このように繰り返される円環を、彼は"Dying and Rising God(死にゆくも甦る神)"と言っています。
ちなみに、聖なる木とはヤドリギのことだそう。
金枝篇からは、この司祭殺しのほか、神話関係がエリオットの詩に影響を及ぼしていると考えられます。
エジプト神話 オシリスの再生力
紀元前3000年前後の古代エジプトのお話の一つです。
2枚の画像をみて、粗方のストーリーをお察しください。
元々は冥界ではなく植物の神。ナイル川が氾濫すると荒れ果てた地に水が流れ、植物が再生するという自然界の生死サイクルを反映していた。
死を克服するという象徴であり、特に植物の再生力を神格化した存在であった。
荒れ果てた地に流れる水によって国土が潤いを取り戻すというのは、荒廃したヨーロッパ社会が再び蘇るというメタファーとしてエリオットの詩に重なるのかもしれません。また、川に流されたオシリスが死後に復活するというのもテーマに沿っています。
その他
アドニス
アッティス
漁夫王
アーサー王物語に登場する城主 本名ペラム王
- 槍によって不治の傷を負い、彼が心を病んだことによって国土も荒廃してしまう
- 王を癒そうと勇者らが聖杯を探しに行き、目的を達成すると王と国土は再び元の姿を取り戻す
まとめ
(木∈植物 , 川∈水 )
死と再生や死後の復活といった輪廻転生の観念が窺える
さらにもう一段潜り、オリジナルといえる「金枝」もチェックしてみます。
ウェルギリウス「アエネアス」
古代ローマの詩人ウェルギリウスが戦争の英雄を描いた叙事詩です。
主人公アエネアスが、トロイア陥落後、新天地を求めてイタリアに渡り、ローマ帝国を築き上げ一帯を支配するに至る遍歴が描かれています。
この作品の執筆にウェルギリウスは11年を費やしたものの、最終場面を書き上げる前に亡くなったそうです。なので未完。
6巻「金枝」について、ジェームズ・フレイザーの「金枝篇」、さらには「バナナフィッシュにうってつけの日」に影響を与えたのではないかと思われる箇所を図示しました。
シビラとカロン ≒ シビルとシャロン?
シビル(Sybil)の語源は女性の預言者シビュラ(Sibylla)、というのは既にやりました。
渡し守のカロン(Charōn)ですが、英語発音だとシャロンになるんです。
偶然の一致かもしれませんが、シビルとシャロンの両方がアエネアスには登場していました。双方共にご老人ですが。
冥界から往還するのも、復活とまでは行きませんが、あの世からこの世に戻ってくるというサイクルは、テーマと少し重なる部分があるように感じます。
「荒地」はダンテからも引用しています。「神曲」では、地獄の案内人としてウェルギリウスが登場します。
現代アメリカ文学であるバナナフィッシュ(略)の世界に潜り込むと、荒地や金枝篇を通じ、最下層といえる古代ローマのアエネイスまで導かれるようです。知らんけど。
まとめというか愚痴
いらすとやさんなどのフリー素材サイトに大変お世話になり、感謝の念は尽きないのですが、エクセルでこの図をちまちま作っているときに、私は何をしているんだろう……という気持ちが100回は芽生えました。しかもマウスあるのに、ずーっとタッチパッドで操作していた。もう癖になっちゃってる。
バナナフィッシュの考察を思いつきで始めたとき、こんな地獄を見ることになるとは思いもしませんでした。私は金の枝を持っていないので、この地獄から無事に生還することはできないかもしれません。
また、今回扱った古典や神話に関して、これは明らかに違うという点がありましたらコメント欄からひっそりとお教えください。できる限り速やかに、ひっそりと修正します。
ありがとうございました。