①ライ麦畑じゃなくて、バナナフィッシュのほう。「ナイン・ストーリーズ」 考察・独自解釈
J.サリンジャ
サリンジャーと言えば「ライ麦畑で捕まえて」
ライ麦で捕まえてときたら「サリンジャー」
というくらい(?)有名な小説家。
本名はジェローム・デイビッド・サリンジャー(Jerome David Salinger)。
戦後の1940年代後半からいくつかの作品を世に送り出すも、大のメディア嫌いで表舞台に出てくることはほとんどなく、2010年1月27日、91歳で息を引き取ったサリンジャー。単行本化されなかった作品や、未発表の短編なども少なからず存在している。メディア嫌いが悔やまれる。ちなみに生まれは1919年1月1日。
センスが光る邦題
原題は「The Catcher in the Rye」で直訳すれば「ライ麦畑で捕まえる者」っといった感じ。これを「ライ麦畑で捕まえて」と訳した野崎孝氏は本当に絶妙な訳をされたというのは、読者満場一致の見解でしょう。だって【本は読んだことないけどタイトルは知ってる】って人、いっぱいいるから。知らんけど。
ライ麦畑なんて田んぼ大国日本人には縁がないのに、なぜかこの「ライ麦畑で捕まえて」は頭に残ってるし、すんなり出てくる。思うにこの日本語のタイトルは、想像力を掻き立てるからこそこんなにも海馬に刺さるんだと思う。まず、「ライ麦畑で捕まえて」の、「捕まえて」がいい。実にいい。この、中途半端な止め方が無意識にその続きを想像させる。
「捕まえて、どうするの?」「捕まえて、どうなったの?」「捕まえて欲しいの?」「捕まえる側なの?それとも捕まえられる側?」と。
原題をみれば、「お前が捕まえる側の者だったんかーーい!!」と一発で分かるんだけど。後は語感。
「夏草や つわものどもが 夢の跡」
「ウイルスも 上司の指示も 変異する」
と、このように(唐突)超有名な俳句と第一生命主催のサラリーマン川柳ランキング2位に輝いたK・Uさんのお見事すぎる一句。そう、みんな大好き5・7・5。このリズム。
「ライ麦畑で捕まえて」は、後半のなかしち(中七)・しもご(下五)の音になってるんですよね、字余りだけど。
だからやっぱり、覚えちゃうんじゃないですかね。染みついたこのリズムが我々の魂を揺さぶる。知らんけど。
このリズム ライ麦畑で 捕まえて ♪
まさにそう ライ麦畑で 捕まえて ♪
ね?もうどんどんノってくるでしょ?頭から離れないでしょ(^^♪♬
…………ふぅ。
史上最悪の川柳はさておき、至上の文学作品に戻ります。
ジョン・レノンを暗殺したマーク・チャップマンがこの本の愛読者だったとか、その他にもこの本に影響されて殺人を犯した、とかそんないわくつきのイメージがあることでも知られる「ライ麦畑で捕まえて」。
かの村上春樹氏はこの本が大好きでご自分で翻訳本も出していらっしゃる、と。これもまたよく知られた話。
宗教に対する冒涜や扇情的な性描写、破滅的な言葉遣い(品のないスラングやFワードが満載なのであろう)などが少年少女の健全な育成を妨げるとして、アメリカでは禁書指定され学校や図書館でこの本にお目にかかることはできなかったという。
まあなんてヤバい事が書いてある小説なんだと思えば、内容としては殺人を推奨するようなものでは全くない。アウトローに片足を突っ込んでいるわけでもないし、まあでも、小指の先くらいは浸かっちゃってる。
「ライ麦畑で捕まえて」はこんな本
教育委員会が望む模範的な生徒の対極をいく17歳のホールデン君が主人公。
カテゴリ的には青春小説なんだけど、スポーツに熱中したり、仲間と冒険したり、とかそういう爽快感や情熱的要素はなし。
「成績不振で退学処分になったし、その通知が実家に届くまで猶予があるからちょっくら学校ぬけだして遊ぶか」とニューヨークに出てくるが、「どいつもこいつも空っぽのつまんねぇ奴ばっかじゃねぇか」的な感じでうんざりする。だけど可愛い妹がメリーゴーランドではしゃいでるのを見たら、「なんか幸せな気分だな。うん、悪くねぇ」と、純真無垢な子供の姿に心洗われる。
見る人が見たら100%に近い確率で怒りを買うだろうが、信じられないくらい端折るとこんな感じ。
大人になること、というより大人社会を受け入れられない少年による、徹底的社会拒絶型青春小説だ。
さて、ここまで書いておいて実はこの本を読んだことがない。
ずっこけるタイミングがあるとしたら今をおいて他にない。
前述のような情報を目にした後に、「えー俄然気になる!読みたい、読んでみたい!」となって早速、お世話になっている市立図書館(電子書籍サービス)で、検索をかけたところ、J.D.サリンジャーの「ライ麦畑で捕まえて」は残念ながらヒットしなかった。がーーん。ヒットしたのは2件。「フラニーとズーイ」、「ナイン・ストーリーズ」。
「ナインストーリーズは確か、あれだ。バナナフィッシュのやつだ……!」
電球がピコーン!と光ったので、迷わず借りるボタンをポチリ。
ここでようやく、本題へ入ることができそうです。はぁ疲れた。
やっと本題
では気を取り直して参りましょう。
「ナイン・ストリーズ」は1948年から1953年に発表された9つの短編を一冊にまとめたものであり、初めて単行本化されたのもまた、1953年であった。
「ライ麦畑で捕まえて」はこの間の1951年に発表されています。
J.D.サリンジャーの翻訳者としては野崎孝氏が有名かと思いますが、今回の訳者は鈴木武樹氏。1934年生まれで1978年に43歳の若さで亡くなられており、専門はドイツ文学。翻訳業や論評の他、社会活動家としての一面もあったそう。
「ナイン・ストーリーズ」の一番目の話「A Perfect Day for Bananafish」は、「バナナフィッシュにうってつけの日」として広く知られていますが、これは野崎氏の訳からきているようで、鈴木氏は、
「バナナフィッシュにはもってこいの日」と訳されています。
以下、順に鈴木氏訳のタイトルと原題とを共に並べておきます。
「ナイン・ストーリーズ」各タイトル(英字付)
- バナナフィッシュにはもってこいの日 (A Perfect Day for Bananafish)
- コネチカットのグラグラカカ父さん (Uncle Wiggily in Connecticut)
- エスキモーとの戦争の直前に (Just Before the War with the Eskimos)
- 笑い男 (The Laughing Man)
- 下のヨットのところで (Down at the Dinghy)
- エズメのためにー愛と背徳をこめて (For Esmé—with Love and Squalor)
- 美しき口に、緑なりわが目は (Pretty Mouth and Green My Eyes)
- ド・ドーミエ・スミスの青の時代 (De Daumier-Smith's Blue Period)
- テディ (Teddy)
本日は【1. バナナフィッシュにはもってこいの日】 について考察やら独自解釈をする予定でこれを書き始めたのですが、もう疲れてきたので次回にします。
というかそもそも、どうしてこの記事を書いているかというと、初読の感想が
「意味、不明なんだが……???」
だったからなんですよ。
巻末にある鈴木武樹先生の解説を拝読しましても、教養に富むあまりか私の脳みそでは理解が追い付かない始末。
で、「いやいや、これはおかしいぞ。さすがにこんなにも分からないのはヤバい」と思って読み返してみると、「あれ?分かるぞ。むむ、分かる….…分かる……!」となってきて、まあわたくしめの勘違いかもしれませんが。
自分なりに読み解いてみたり、補足してみるうちにストーリーの解像度が高まってきたので、今キーボードをカチャカチャやっています。
あとはブログ自体初めてやるので使い方がさっぱりである。問題があったらすみません。こまめに直していく予定ではいますが。
次回、「やっとバナナフィッシュにたどり着いた」
ありがとうございました。
▸次回