ブラームスの子守歌

面白かった小説、お気に入りのドラマ、心に響く映画などを考察したり感想を書いたり。

②J.D. サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」徹底考察!木が気になって木になってしょうがない

 

 

バナナフィッシュってお魚でおk??

バナナフィッシュと言えば、日本では吉田秋生氏の漫画『BANANA FISH』が一番有名なのかもしれない。2018年時点で累計発行部数1200万部を突破している人気漫画だ。ここに登場するバナナフィッシュも、サリンジャーの小説から影響を受けているであろうことが窺える。余談を飛ばす

 

初めてこの単語を聞いたとき私は、バナナっぽい形のお魚かな??と思った。たぶん98%の人間が私と同じ感想を抱くと思う。知らんけど。「バナナフィッシュ 魚」で検索してみると、タカサゴという魚がでてくる。

ja.wikipedia.org

学名は「Pterocaesio digramma」といい、英名が「bananafish」となっている。けれどWikipediaの英語ページでタカサゴを検索すると、「double-lined fusilier」となり、「bananafish」は出てこない(「banana fish」なら《ソトイワシ》として出てくる)。「double-lined fusilier」を2つに分解すると、2本線の(double-lined)マスケット銃を装備した兵士(fusilier)となり、ますます訳が分からない。確かにタカサゴの体には2本の黄色い線が走っているので、前半部分は分かるが後半はマジでどうした。そしてこれ以上深堀りするのはやめる。

 

 

あと、大切なことがあるとすれば、「ナイン・ストーリーズ」に登場する「バナナフィッシュ」はサリンジャーが創り出した架空の魚だそうだ。そう、つまりは……架空の魚なのだ。

 

 

問「バナナフィッシュってお魚でおk?」

答「おk。ただしサリンジャーの小説においては、架空の魚のことやで」

 

~(完)~

 

 

 



いや、まだです。まだまだ終われない。というか、サリンジャーとの戦いはまだ始まってもいない。

 

「バナナフィッシュにもってこいの日」を読み解く上で、当然のことながらバナナフィッシュは最重要ワード。

 

最終的には、それが何のメタファーであるのか?というのを考察していきたいと思います。

 

では、例によってまとめ方が酷いあらすじから。

(あらすじではネタバレしません。結末を知っている方の方が多いでしょうが、一応)

 

 

あらすじ

「バナナフィッシュにはもってこいの日」訳・鈴木武樹

(1) とあるホテルの一室から始まります。電話が鳴って、若い女性がそれをとる。相手は女性の母親から。母親は娘をひどく心配しています。親子の会話が長々と続きますが、互いの話を遮ったり、話題が転々とし、主旨が何なのかよく分からないままに終了。

(2) 場面が変わり、舞台はホテル近くの浜辺に。ここでは小さな女の子と若い男性が中心人物となります。そして、肝心のバナナフィッシュも二人の会話中に登場。

(3) 幼女と別れた男性は、客室に戻る際のエレベーターでとあるご婦人と乗り合わせ、そこで少し険悪な雰囲気に。

(4) 507号室に戻った男性は、ある大きな、取り返しのつかない決断をします。

こんな感じ。

 

 

やっと考察

場面ごとの疑問点や注目したい部分を、引用等々を交えながら自分なりに考察していきます。

 

想像力が試される親子の会話

電話をかけてきたのは母親。受けたのは娘。ということで、二人の会話は、とってもカジュアル。

 

 

……ほんと、何言ってるか分からないんだわ。

 

確実に分かるのは、母親はひどく娘を心配しているということ。

それに対して娘は大丈夫っていってるでしょ~。何度も聞かないでよ~ってな感じで、全体的になんか軽い。

 

2人の会話には温度差があって、シリアスなママと、ライトな娘。一方は重々しく、もう一方は軽々しい。同じこと2回言っちまった。

 

で、もう少し読み進めると、心配する理由がわかる。

お母さんの言い分ではこんな感じ。

 

娘の夫は戦場帰りで精神が非常に不安定である。いつ正気を失うか分からず危険な状態。

大切な娘の身に被害が及ぶのではないかと夜も眠れない。

 

夜も眠れないとは一言も言っていませんでしたが。

"I've been worried to death about you. Why haven't you phoned? Are you all right?"

出典:J. D. Salinger “A Perfect Day for Bananafish

母「死ぬほど心配してたんだよ。なんで電話くれなかったの。だいじょうぶなの?」

とは言ってます。

 

 

記念すべきお母さんの第一声はこちら

「ミュリエル?おまえかい?」

これで若い娘の名前がやっと判明します。ミュリエルです。

(そのまえに電話交換手が 「ニューヨークがお出になりましたけど、グラスさん」と言っているので、この若い女性は「ミュリエル・グラス」となる)

 

ここから延々と続く会話劇を全て書き出したいところだが、それは著作権的にも問題がありそうだし、何よりその気力が私にはない。

私調べでは55ラリーにも及ぶ会話が続いた。110以上の台詞。なっが。

 

会話で全貌は語られず、いくつかの謎が登場します。1つずつ追っていきます。
 
謎① 木だけに気がおかしくなる、のか……?

 

「あの人が運転した? ミュリエル、おまえ、わたしに約束したでしょうが――」

(略)
「途中で木に、ほら、例のおかしなことしなかったかい?」

「運転はとってもうまかったって、言ったじゃないの、お母さん。ねえ、もうよして。あの人には頼んでおいたのよ、白い線から離れちゃいけないって、そういったこと、みなね。そうしたら、あたしの言う意味、わかってね、そのとおりにしてくれたわ。木は見ないようにもしてくれていたわ――ほんとよ。それはそうと、お父さん、あの車、直してもらった?」

「まだだよ。四百ドルだって言うもんだからね、ただ――」

「お母さん、シーモアがお父さんに言ってたでしょうが、そのおカネは払うって。なにもお父さんが――」

引用:「バナナフィッシュにはもってこいの日」(著)J.D.サリンジャー (訳)鈴木武樹

 

ここから読み取れるのは2つです。

 

  • 娘の夫は車を運転した際、事故を起こした。おそらく木にぶつかった
  • 夫の名はシーモア。姓はグラスと判っているのでつまり、シーモア・グラス

 

この「シーモア・グラス」は、次の場面である(2)にも響いてくる感じです。

 

私がよく分からなかったのは、木を見ると事故るのか?ということ。

文脈的にハンドル操作が上手くいかず横道に逸れ、木にぶつかってしまったという感じがしない。

木を視界に入れてしまった結果、暴走して事故を起こしたの方がニュアンス的に近く感じる。

 

木を見る → ハンドル操作がおかしくなる

だとしたら、それはなぜなのか。うーーーん。

 

……分からん。

 

これじゃあ記事タイトルが嘘八百になってしまうので、自分なりに理由をつけてみる。

 

解① 私のアンサーはこれ

 

とりあえず、キーは戦場帰りということだと思う。

年代からしてそれは第二次世界大戦のことだし、実際に、サリンジャーも従軍していた。しかも、ノルマンディー上陸作戦にも参加していた。私は「プライベート・ライアン」くらいでしかその苛烈な上陸作戦知を知らないが、あれを見た限りでは阿鼻叫喚の地獄絵図の真っ只中にいたことになる。

結論から言うと、サリンジャー…じゃなかったシーモアは、自傷行為として車で木に突っ込んでいったのではないか。

目に映るのは、負傷した兵士の骨や肉、はらわた。耳にするのは迫撃砲の轟音や助けを求める仲間の断末魔。嗅いだのは噎せ返るような濃い血や火薬の匂い。

 

5Gくらいの圧力がかかる場所(=極限のストレス下となる戦場)にずっといて、そこから元の世界に戻ってきたら、何もかもが嘘みたいに感じると思う。全てが馬鹿馬鹿しいというか。世界の軽さが受け付けられない。浮いているような、現実と自分が乖離して、どこにも魂の置き場がないような。

 

リストカットをする理由の一つに、「血を見ると生きているのを実感する」とか、「この痛みだけは本物で、自分は生きていると分かる」といったものがある。

 

それと似たような事がシーモアの中で起きていたんじゃないか、と私は思う。

 

深海魚は、その水圧によってまともな状態で生きられる。急激に減圧すると膨張して死んでしまう。シーモアもきっと、そうだったのだ。戦場で生と死の極限を知ってしまった彼は、あまりにも何も起こらないこの世界において、脳にかかる負荷が足りず、バランスを見失っていた。だから彼は、「圧」を求めた。

 

以上。

 

という木ーワードとは関係のない解釈になりましたが。

...こりゃすべったな。

 

 

追記:この記事の第5回にて、より明確な答えが得られました。自傷行為というより、トラウマの方が近そうです。詳しくはこちらからご覧ください。

handbook24.hatenablog.com

 

 

 

 

どうやら配分が狂ったようだ

 

……想定の10分の1も進まなかった。これはヤバい。

私のパーフェクトプランでは、この記事は①に始まり⑨できれいサッパリ終わる予定だったのだ。だって、「ナイン・ストーリーズ」だし。

 

まぁ、その為には前回の時点で「バナナフィッシュにもってこいの日」一話全体の考察を終えていないといけないので、既に私の緻密で隙のないパーフェクトプランは破綻していたことになる。

ちなみにパーフェクトプランに引いてあるアンダーラインは全くの無意味である。

 

 

4000字近くつかって、謎解き一個って、ねぇ。やっぱあれかな。

バナナフィッシュが魚かどうか検証してた前置きとか、マジで不要だったのかな……。

 

 

フィッシュに決まってんだろ!!!

 

 

っていうサリンジャー先生の怒りが聞こえてくるようだ……

 

 

次回、「巻きでいこう」

 

ありがとうございました。

 

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