「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ 」を読んだ。黒人社会、BLMが分かる本。お子さんにもおすすめ。
はじめに
米国のある調査によると、2013年に出版された3,200冊の児童書のうち、黒人を主人公にしているのはたった93冊。全体の3%にも満たない。
黒人が著者で、黒人が主人公、登場する人物も黒人ばかり。これが普通になる世界はまだ先なのかもしれません。
ザ・ヘイト・ユー・ギヴ はこんな本
女子高生”スター”は警官に銃殺された友達のため、勇気を振り絞って声を上げるーー
読書感想文の課題図書にもなったそうです。ティーン向けですが、一読の価値はあると思います。ちなみに私はマルコムXの存在をこの小説で初めて知りました。エメット・ティル事件も同様。
あらすじ
ギャングが徘徊し、ドラッグが蔓延するゲットー(黒人街)で生まれ育った高校生の女の子スターは、10歳の時、友達が拳銃で撃たれるのを目撃していた。
その後、上流階級育ちの白人の子たちが通う高校に通っていたスターだったが、ある夜、幼馴染のカリルが警官に撃たれるところを目撃してしまう。しかし警察は、無抵抗のカリルを撃った白人警官の行為を正当化するため、カリルを極悪人に仕立て上げようとする。
カリルの声になることを誓ったスターは、カリルの汚名をそそぐ為、証人として法廷に立つことを決意する。
ティーン時代の自分に勧めたい一冊。
感想
脈絡のないぐだぐだの感想文です。読み飛ばしてください↓
白黒つけるって言うけど…
基本的には黒人が「善」の役割を担い、白人が「悪」の役割を担っています。そりゃあ黒人目線で描けばそうなるし、逆もしかりだと思います。
白人と黒人のパワーバランスが平等ではないことは理解しています。黒人警察官が無抵抗の白人を射殺なんて事件は見たことがない。一方、無抵抗の黒人に寄ってたかって暴行する白人警官のニュース映像は何度も見た。許されない。2020年のジョージ・フロイドさん殺害事件後は、全米でBLM運動が加熱した。白人によって黒人が差別されている現実があるのは確か。
それでも、大別だとしても、善悪を人種で分けられちゃうと、すんなりとは入ってこない、ところがあった。特に私は判官贔屓なたちのため、一方が悪く描かれるとそっちを擁護したくなる。
だけど「白人もみんながみんな悪い人じゃないんだよ!」という当たり前のことをいちいちやっていたら「抑圧された黒人の声を届ける」という小説が成り立たないので仕方ない。
無意識の差別ってやっぱりあるし、それを突き付けられたときに、認めることが嫌で目を背けたくなる。アメリカ在住の白人が読んだら、何とも言えない気分の悪さを感じると思う。なんとなく、自分が責められているような。
やはり、人種問題は根深い。
マイノリティとして生きる
自分の国に自分とは違う人種がいる。マジョリティは向こうであり、こちらはマイノリティ。そんな環境は、そこに生まれついた人にしか分からない。島国日本に生まれると、それは顕著だと思う。感覚を想像できたとしても、体感することは難しい。
だけどこの本を読むと、黒人として生きることを少しだけ実体験できる。そんな感じがしました。
人間、何かしらの面では必ずマイノリティだと思います。だけどそれが自分のアイデンティティや核となるものであった場合、少数派に属することは生きる上でものすごい障壁になったりする。
実は私も半分日本の血ではない。日本生まれ日本育ち、触れた言語は日本語のみ。それでも、見た目はやっぱり、ちょっとだけ違うらしい。
仲間はずれにされたりいじめられたり、そういうのはやっぱりあった。半分外国人であることを客観的に捉えることができなかった幼少期、自分だけはじかれるのはショックだった。クラス写真を見て、どこが?全然みんなと違わないじゃん、と密かに嘆いたけれど、ある程度大きくなってからもう一度見ると、やっぱ違うか~というのが感想だった。
話を戻そう。このお話は主人公のスター(16歳)の一人称で語られるので、マクロな視点での黒人社会を知れる訳ではない。フォーカスされるのは、ひとりの少女から見た「今、私が生きている世界」。
元々は地元の学校に通っていたけれど、治安や教育の質を考慮して白人が殆どのアッパークラスが集まる学校に通っているスター。ゲットー育ちであることを極力知られないように、学校ではモードを切り替えて生活。スラングや発音には特に気を配っているのが分かります。
なまりで出身地域が分かるだけじゃなく、労働者階級だとか中産階級だとか、社会的な所属まで分かってしまう。そういう面があるんでしょう。素の自分を晒すのはハードルが高いですが、本当の自分を出せないのも疲れますよね。
登場人物の整理(図)
スターのおうち(カーター家)は家族構成も複雑です。彼女には弟のセカニと兄のセブンがいるのですが、セブンとは腹違い。父親はスターと同じマーベリックなのだが、母親はアイーシャという。そしてアイーシャはギャングのボスであるキングの妻。スターの父親マーベリックは元ギャングで、キングとは旧知の仲。言葉だと何いってるか分からないですね。
貧困は百害あって一利なし
ギャングとか普通に出てきちゃうのが、やっぱり日本とは違うなって感じです。貧困は治安の悪化を生み、それが更なる悪を連れてくる。
高校卒業したところで白人に雇われて最低賃金で働かされるだけじゃん。ダサすぎ。だったらギャングになって薬捌いた方がよっぽどイケてるし、断然いい暮らしができる。
本にはこんな子は出てきませんでした。すごくいい子なんだけれど、お金がなくてやむを得ず、といった感じ。
だけどリアルにはこんな感じの考えの子、いっぱいいるんだろうと思います。日本で生まれ育った人間からすると嫌悪さえ感じるほどだしいくらでも批判はできるけど、そこに自分の傲慢さを感じずにはいられません。
スターはご両親にとっても愛されていて、それが伝わる場面は数え切れないほどありましたが、実際はこうはいかないだろうと。
貧しいけど家族仲良く幸せに暮らしてますは、やっぱりレアケースだと思う。アメリカ貧困社会だと、親がそもそもジャンキーだったりするケースも多い。そして貧困社会では絶望感から中毒に陥りやすい。中毒になればまともに生活できないし、当然子育てもできない。ネグレクトや虐待が蔓延する。想像に難くない負のループが延々と続く。
確かに社会派の小説だけれど、さすがにそこまで何の救いもない世界は描かないですよね。ティーン向けだし、絶望しか与えないのは良くない。
まともな感想はこちらからご覧になれます▾
UPしてたよ!黒人主人公の数
2012年から2021年の間に出版された児童向けベストセラー1,511冊を分析した結果。2020年は、ベストセラーのなかで28%が黒人主人公となっている。2021年には20%近くまで落ちてしまっているけど…
多様性が当たり前だと子供たちに知ってもらうのに、やりすぎってことはないと思います。リトルマーメイドの件もそうだと思う。我々が違和感を覚えてしまうのは、自分達が幼少期に刷り込まれた当たり前とズレがあるから。
「当然」の基準が変わっていくのは、なんだか怖い。意識せず立っていた足元がぐらつくような、漠然とした不安を生む。
それでも、10年20年先の当たり前を実現させるためには今、必要なのでしょう。大人のもやっと感なんて吹き飛ばすほどに、どんどん進め、多様性!
著者情報・他作品・関連作品
アンジー・トーマス (Angie Thomas)
1988年アメリカミシシッピ州生まれ。6歳の時に銃撃戦を目にするなど、銃の暴力に晒される環境にあった。ラッパーとしてのキャリアは短命で、その後美術学校で学位を取得。ザ・ヘイト・ユー・ギヴは、仕事(教会の大司教秘書)の合間に書いていたそう。
▾実写化もされています
▾同じ著者の作品
▾黒人社会と白人社会の「完全な分離」を唱えたマルコムX