ブラームスの子守歌

面白かった小説、お気に入りのドラマ、心に響く映画などを考察したり感想を書いたり。

映画ウインド・リバーに出てくる詩があまりにも美しかったので、日本語訳してみた



 

ウインドリバーはこんな映画

 

インディアン保留地の闇

深い雪に閉ざされた世界。一人の少女が極寒の中を必死に駆ける姿が映る。悲痛な光景とは対照的に、流れてくるのは温かく柔らかな声で紡がれる詩。

 

冒頭から、一気に引き込まれる。

 

場所はアメリワイオミング州のインディアン保留地、ウインド・リバー(Wind River)。

黄色枠がワイオミング州、赤塗りつぶしがウインド・リバー。出典:googlemap

 

翌朝、少女の凍死体が発見される。周囲10㎞圏内には一軒の家もない雪原の中、裸足で。マイナス30度の世界で、それは自殺行為に等しい。

 

なぜ彼女は死ななければならなかったのか。

地元の野生動物ハンターがFBIと協力して事件の解決に動く。

 

FWS(合衆国魚類野生生物局)のハンターをジェレミー・レナー、地元警察に協力要請を受けてやってきたFBI捜査官をエリザベス・オルセンが演じる。

 

緊張感のあるクライムサスペンスの中に大自然の過酷さが描かれる。インディアン保留地というアメリカ社会が抱える闇がいかに深刻であるかが次第に浮かび上がり、変えようのない現実の絶望感と閉塞感が伝わってくる。

 

 

そして冒頭の詩は、亡くなった少女が描いた理想の世界だったということが明らかになる。

 

 

少女の理想郷を描いた甘美な詩

 

日本語を探しても見つからなかったので訳してみました。オリジナルの持つ美しさを保つことができませんでしたが、映画を鑑賞した上なら心に響くものがあるかもしれません。

 

 

草原が広がる  私だけの完璧な世界
そよぐ風が枝葉を揺らし
水面に反射した木漏れ日がきらめく

 

孤高の巨木は揺るぎなく
その下の世界を影で包む


いつか私はその木に背をあずけて休み
遠い向こう  優しいオレンジ色に染まる谷を見上げる

 

 

 

木の葉が色づいていく
緑から黄色  そして深い赤に
最後の一枚が舞い落ち
寒々しい枝だけが残る


けれどここでは 木は永遠の命があり
冬は一度だって訪れない
私のかけがえのないもの全てが詰まったこのゆりかごの中で
あなたの記憶一つ一つを守る

 

 

 

あなたの慈愛に満ちた眼差しから遠く離れて
ぬかるみに足を取られ
現実に凍てつく自分に気が付いたとき———
私はここに戻ってくる

 

 

目を閉じて
あなたを知っているというたった一つの完璧な事実に

 

 

———永久の安らぎと慰めを得るの

 

 

There is a meadow in my perfect
world. Where wind dances the
branches of a tree, casting leopard
spots of light across the face of a
pond...

The tree stands tall and grand and
alone, shading the world beneath
it.

There will come a day when I rest
against its spine and look out over
a valley where the sun warms, but
never burns...

I will watch leaves turn. Green,
then amber, then crimson. Then no
eaves at all...

But the tree will not die. For in
this place, winter never comes...
It is here, in the cradle of all I
hold dear, I guard every memory of
you.

And when I find myself frozen in
the mud of the real -- far from
your loving eyes, I will return to
this place, close mine, and take
solace in the simple perfection of
knowing you.

Wind River(2017)より

おわりに

 

詩を訳すってかなり難しいですね。良さが抜け落ちてしまう。言語一つ一つに固有の美しさがあるということがよーく分かりました。

 

映画は本当に素晴らしいのでぜひご覧ください。

 

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